「切支丹御禁制高札」のお話し [キリスト教関係事項・用語等]

今日は、「切支丹御禁制高札(きりしたん ごきんせい こうさつ)」のお話しです。過去にこのブログに掲載しましたが、写真の「高札(こうさつ)」は、2017年6月15日にカトリック本所教会を訪問した際に、教会の信徒館の玄関に展示されていましたので撮らさせていただきました。もちろん教会の方に撮影許可はいただいております。黒ずんではいますが、文字はきちんと読めます。
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次の写真は、私が所蔵する高札です。日焼けしたのか雨ざらしになっていたのか、字が薄くなっていますが判読することはできます。書いてある内容(文字・文章)は、本所教会が所蔵している高札とまったく同じです。
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高札は、一般的には「こうさつ」、他に「たかふだ」と読みます。テレビや映画の時代劇に出てきますから、皆さんご存知だと思います。江戸時代以前から明治時代初期にかけて、時の政権(幕府や大名など)が発令した法令を板面に記し、往来する人々に掲示して民衆に周知させるために用いたものです。「高」は高く掲げたことから。「札」は板のことですね。一種の掲示板のことです。

写真の2つの高札は、両方とも慶応4年3月(1868年)とありますから今から153年前になります。慶応4年は、この年の9月8日に「明治」に改元していますから、慶応4年=明治元年ということですね。そして、この慶応4年の3月は、明治天皇が「五個条の御誓文」を発令した時と同じ月です。書いてある文章を現代語訳すると「キリスト教の信仰は、これまで禁止してきたとおりに固く守ること。邪悪な宗教は固く禁止します。」ということです。明治政府になっても、切支丹(キリシタン)に対する取り締まりは厳しく、切支丹(キリシタン)を捕縛しては拷問にかけるという弾圧・迫害をしていました。

「定
(さだめ)

一、切支丹宗門之儀ハ
(キリシタン宗門の儀は、)

是迄御制禁之通り
(これまでご禁制のとおり、)

固く可相守事
(固くあい守るべきこと。)

一、邪宗門之儀者固く
(邪宗門の儀は固く、)

禁止之事
(禁止のこと。)

慶應四辰年三月
(1868年3月)

太政官
(だじょうかん)」

「切支丹(キリシタン:又は「吉利支丹」)」とは、語源はポルトガル語(Cristão)で、日本の戦国時代から江戸時代、明治時代初期まで使われていた日本語です。元々はポルトガル語で「キリスト教徒」という意味であり、英語では「クリスチャン(Christian)」となります。本来はキリスト教徒全般を指しますが、戦国時代以降、日本に伝来したキリスト教(カトリック教会)の信者・伝道者などを指します。

「太政官(だじょうかん)」とは、日本の江戸時代末(幕末)から明治時代初期にかけて設けられた明治維新政府に設けられた官僚職名で、慶應4年6月(慶応4年=明治元年・旧暦閏4月)に公布された政体書(慶応4年太政官達第331号)に基づいて設置されました。後に、長官として太政大臣(だじょうだいじん)が置かれるようになり、1885年(明治18年)に内閣制度が発足したことに伴って廃止されました。

新政府(明治政府)は、江戸時代(徳川幕府)から引き継いだ「引き続きキリスト教を禁止するので固く守ること」の旨を国民に告知したのですが、調べてみると、これと同じ高札は全国の高札場に掲示されています。ちなみに切支丹御禁制(キリスト教禁教)の高札が撤去されるのは明治6年(1873年)になってからです。約5年間ほど高札場に掲げられていたのです。高札が撤去されただけで、キリスト教の信仰が公認されたわけではなく、ただ黙認されただけでした。なぜ撤去されたか?それは諸外国の内政干渉でした。

当時の明治政府は、諸外国との不平等条約の解消に力を注いでいましたが、明治政府による一連のキリシタン弾圧行為の情報が欧米諸国に伝わり、「キリスト教徒を弾圧するなど、そのような野蛮な国とは対等な条約など結ぶことはできない!」ということで、日本政府に対しキリスト教弾圧政策に圧力をかける結果に繋がったからでした。極めて限定的ですが、公式に信教の自由(キリスト教の信仰)が認められたのは、『大日本帝国憲法』が発布された明治22年(1889年)になってからのことです。しかし、真の意味において平等に信教の自由が認められたのは、『日本国憲法』が施行された昭和22年(1947年)からのことでした。

◯ご参考
1.『大日本帝国憲法』第28条(信仰自由)
「日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務二背カサル限二於テ信教ノ自由ヲ有ス」
2.『日本国憲法』第20条(信仰の自由と政教分離)
「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」
3.高札場(復元)
写真は、東海道・日坂宿(静岡県掛川市日坂)の街道沿いに設けられた「高札場(こうさつば)」です。いろいろな高札が掲げられていますね。ちなみにこれは復元したものです。
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