イスラームの聖典『クルアーン』のお話し [キリスト教関係事項・用語等]

前回に掲載した内容とほぼ同じ内容ですが、年数は現在に換算して再掲載いたします。
今日のこのお話しを読めば、“ イスラームの基本的なことは知ってる ” と人に言えます。一般的にイスラム教と言いますが、正式には「イスラーム」といいます。唯一絶対の神であるアッラー(アラビア語でアッラーフ)を信仰し、神が最後の預言者であるムハンマドをとおして人々に下したとされる「クルアーン(コーラン)」の教えを信仰する一神教です。イスラームは、キリスト教や仏教でいうところの宗教の枠には収まらず、政治・経済・法律・社会・生活習慣・文化など、人間生活のほとんど全てを規定するものですから、イスラム教という宗教の面だけではないため、全てを含むイスラームといいます。聖典のコーランですが、現在では正式名称の「クルアーン」という名称となります。

ユダヤ教やキリスト教の影響を受けた唯一神教であり、偶像崇拝を徹底的に排除して神への奉仕を重んじ、信徒同士の相互扶助関係や一体感を重んじる点に大きな特色があるとされます。しかし、宗教学者などが、ユダヤ教やキリスト教との類似点を分析し、聖書がクルアーンの起源と発展に影響した証拠とみなそうとすることがありますが、しかし、イスラームを信仰するムスリムの観点からいえば、こういった論議は意味をなしません。ムスリムは、クルアーンは神アッラーフが、天使のジブリール(キリスト教では大天使ガブリエル)をとおしてムハンマドに一連の啓示の中で伝えたものであり、この完璧で神性に満ちた啓示が一語一語、何度も何度も間違いがないように確認しながら、ムハンマドによってイスラームの支持者のために漸進的に筆記されたものだと信じているからです。

◯言葉の説明
1.【クルアーン(コーラン)】
イスラームの聖典のこと。コラーンともいいます。元は「読誦すべきもの」の意。約8万語のアラビア語の散文および韻文からなり、114のスーラと呼ばれる章に分かれています。キリスト教の主の祈りに比される冒頭の「開扉の章」(ファーティハ)を除き、長い章から順に配列されています。イスラームの信仰者にとっては、アッラーの神の言葉そのものであり、永遠なる創られざる神の意志であり,天使ジブリール(大天使ガブリエル)を通してメジナとメッカで預言者であるムハンマドに啓示されたとされる教義と掟の集大成となっています。アッラーに対する絶対的帰依を説いています。
読めば分かることですが、キリスト教の聖書(新約聖書・旧約聖書)及びユダヤ教の聖書(キリスト教でいうところの旧約聖書)と共通する部分は多いですね。初めは口承であったものが断片的に集録され、ムハンマドの死後にまとめられました。異本が生じたので第3代カリフのウスマーン(在位 644~656)によって公認の正典が定められ、他の写本は一切破棄されたということです。

2.【ムスリム】
イスラームを信仰する人を意味するアラビア語です。本来は「(神への)帰依者」の意味です。イスラム法の規定によれば,ムスリムは次の5の行いを義務づけられています。それは、①信仰告白(シャハーダ)、②1日5回の礼拝(サラート)、③イスラム暦第9月(ラマダーン)の断食(サウム)、④喜捨(ザカート)、⑤可能な場合には一生に1度のメッカ巡礼(ハッジ)です。ムスリムの数は7世紀のアラブの大征服時代から徐々に増えはじめ、9~10世紀には中央アジア,エジプト,北アフリカ地域のイスラム化が拡大しました。現在のムスリムの分布は,中国西部から東南アジア,インド,中央アジア,西アジア,アフリカにを主に世界全域にまで及んでいます。その数は、2015年度で約16億人といわれています。

3.【カリフ】
ムハンマドの後継者の意味でイスラーム教団の最高指導者。10世紀には三つ(北アフリカのファーティマ朝、イベリア半島の後ウマイヤ朝、バグダードのアッバース朝)に分立しました。オスマン帝国ではスルタンがカリフを兼ねましたが、オスマン帝国の滅亡により、1924年に廃止されました。

4.【スルタン(スルターン)】
イスラーム世界における君主の称号です。宗教的権威であるカリフから、国(地域)の世俗的権力を委託された者の称号をいいます。セルジューク朝にはじまり、14世紀のオスマン帝国で確立し、さらにカリフの地位も兼ねてスルタン=カリフ制となりました。

5.【喜捨(きしゃ)】
日本では仏教からきている言葉ですね。例えば、お寺や神社にお参りする時、お賽銭(さいせん)をあげてから拝みますが、お賽銭は祈願に対する代金ではなく、お参りをした後、「後日何かの費用に少しですがお役に立て下さい。」という意味でお賽銭をあげているのですね。「喜捨(喜んで捨てる)」の「捨」とは、“慈・悲・喜・捨”の四無量心の捨無量心で、執着しないという意味で、「捨」はお布施のことなのです。お布施というと、すぐに「あげること」と考えられますが、本当は「させていただく」という感謝の行為が「施」なのですね。「施」は「欲しがらないこと」、「こだわらないこと」です。私たちが要らなくなった物を捨てる時、その物に心を残して捨てますか?どうでもいいと思うから捨てるのですね。その物に対して「執着する心」がないから捨てるのです。そこで、「喜捨」は「浄施」とも言いますが、「ありがとうございました。どうぞ何かの折にお役立て下さい。」という心であげるのがお賽銭で、喜んで供えさせてもらうので「喜捨」ということになります。

近年、イスラム原理主義やイスラム国など、イスラームに関係するテロなどが世間を賑わせましたが、なかでもその中心となったのはISILです。これはアブー・バクル・アル=バグダーディー指揮の下イスラム国家樹立運動を行うアルカイダ系イスラム過激派組織のことです。イラクとシリア両国の国境付近を中心とし両国の相当部分を武力制圧し、国家樹立を宣言してラッカを首都と宣言しました。2023年7月時点で、イラクとシリアにおける全ての占領地を失い、事実上の壊滅状態になっています。しかし、このような過激派の人たちと、クルアーンをきちんと信仰をしているムスリムを一緒にしてはいけません。元々イスラームの人たちは過激ではないのですから………むやみに人を殺すという点では、イスラム過激派も聖地奪還と称して十字軍の遠征を行った当時のキリスト教徒も同じだと思います。

………ということで、ここ数年で、日本の社会にもムスリムの方々がたくさん入ってきており、私の職場の大学でもヒジャブをかぶった女子留学生をよく見かけるようになりました。キリスト者としてイスラームのことを理解する必要もあって、岩波書店から出版されている井筒俊彦訳の『コーラン』を岩波文庫版(上・中・下の3巻)で6年前に読みました。この文庫版は、私が生まれる前年の1957年に第1刷が発行され、昨年の2016年には第71刷を発行している超ロングベストセラーです。その中から、ほんの一部ですが、聖書では「受胎告知(じゅたいこくち)」といわれるところを掲載いたします。受胎告知とは、聖母マリア様が天使から聖霊によって子ども(イエス・キリスト)を身籠もった(妊娠した)と告げられたことです。
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書名:『コーラン』
訳者:井筒俊彦
出版:岩波書店・岩波文庫(青帯)
発行:1957年11月25日
定価:上1,048円、中1,048円、下1,091円(以上税込み)
2017年9月19日時点での定価です。

キリスト教聖書よりも後に成立したクルアーンですから、聖書を真似たという人もいれば、もともと口承によって聖書以前からあったという人もおり、まぁ、諸説いろいろですね。クルアーンには、イエス・キリストは預言者として記載されていますし、聖母マリア様もイエス・キリストの母親として記載されています。聖書でいうところのアブラハムはイブラーヒーム、モーセはムーサー、イエス・キリストはイーサー、聖母マリア様はマルヤムという名称となっています。

◯例えば、クルアーンから次の箇所を掲載します。これはキリスト教では受胎告知というところです。
「………そこで天使らは宣言した。「これマルヤム(聖母マリア)。かしこくもアッラー様の嬉しいお告げじゃ、お前は神から発するお言葉を産みまつるであろう。その名はメシア。マルヤム(聖母マリア)の子イ-サー(イエス・キリスト)。そのお方は現世にても高きほまれを受け、神のお傍近き座につかれるであろう。揺り籠の中にあっても、また成人してからも人々に語りかけ、義しき人(ただしきひと)となられるであろう。」
彼女が、「主よ、どうして妾に子どもなどできましょう、まだ誰も妾のからだに触れた男もありませんものを。」と言うと、「このようにアッラーは何でも御心(みこころ)のままに創造し給う。何事でもひと度こうと決め給えば、ただ「なれ」と仰しゃるだけでそうなるのじゃ。そればかりか神はその子に聖典と聖知と律法と福音とをお教えになり、イスラエルの子らのもとに使徒としてお遣わしになるであろうぞ。………」

◯では、同じ場面を聖書から新約聖書の「ルカによる福音書」の第1章・第28~第38節を掲載します。
「………天使は、彼女のところに来て言った。「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる。」マリアはこの言葉に戸惑い、いったいこの挨拶は何のことかと考え込んだ。すると、天使は言った。「マリア、恐れることはない。あなたは神から恵みをいただいた。 あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名付けなさい。その子は偉大な人になり、いと高き方の子と言われる。神である主は、彼に父ダビデの王座をくださる。彼は永遠にヤコブの家を治め、その支配は終わることがない。」
マリアは天使に言った。「どうして、そのようなことがありえましょうか。わたしは男の人を知りませんのに。」 天使は答えた。「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。だから、生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる。あなたの親類のエリサベトも、年をとっているが、男の子を身ごもっている。不妊の女と言われていたのに、もう六か月になっている。神にできないことは何一つない。」マリアは言った。「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように。」そこで、天使は去って行った。」

【ヒジャブ】
「ヒジャブ」は、アラビア語で「覆うもの」を意味する名詞です。イスラム教を信仰している女性(ムスリマ)や非ムスリマを含めた着用を法的に義務付けているイスラーム教国内の女性が、頭や身体を覆う布のことを指して使われます。
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「聖ベネディクト修道院長」のお話し [聖人・福者・尊者]

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今日7月11日は、「聖ベネディクト修道院長」の記念日です。
聖ベネディクト(イタリア:480年ごろ〜547年、「ヌルシアのネディクトゥス」とも呼ばれます)は、イタリアのヌルシアに生まれ、ローマで勉学に励みましたが、20歳のころスビアコに身を退けました。そこで隠修士ロマヌスに出会い、修道士となって洞窟で厳しい禁欲生活を送りました。やがて聖ベネディクトの名声は高まり、彼に倣おうと多くの青年が集まったので、近くに12の修道院を建てました。529年、彼は数名の修道士を伴ってモンテ・カッシーノに修道院を建て、それは教会で最も有名な修道院となりました。また、彼は修道士のために修道生活の規則「ベネディクトの戒律(会則)」を書き、祈りや生き方などについて分かりやすく述べ、修道士を完徳へ導くものでした。「ベネディクトの戒律(会則)」は、長い間、中世ヨーロッパの修道院制度(生活の規則など)の基礎を築き、西方ヨーロッパの修道院制に重要な役割を果たすものとなりました。
◯聖ベネディクトのイコン画です。
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◯『聖ベネディクトの戒律(ポケット版)』
祈り、生き方などについて分かりやすく述べられており、戒律が作られた時代背景を理解できるなら、現在の生活に落とし込んでも十分に通用する応用できる内容です。皆様のご一読をお奨めいたします。
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著者:ベネディクトゥス
訳者:古田 暁
発行:2006年11月11日
発売:ドン・ボスコ社
定価:本体900円+税(全184頁)2017年7月8日購入時の定価です。
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