「神のお告げ」のお話し [キリスト教関係事項・用語等]

今日、3月25日は「神のお告げ」の祭日です。
大天使聖ガブリエルは、おとめマリア(聖母マリア様)に、神の子イエス・キリストがマリアから生まれることを告げました。これを「受胎告知(じゅたいこくち)」といいます。天使の言葉に、初めはとまどったマリアでしたが、神の働きを心に受けとめ「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身になりますように」と、神の母となる使命を受けました(新約聖書:ルカによる福音書・第1章・第26~38節)。マリアが親戚のエリザベトを訪問した際に、神の母となる喜びと主への賛美を歌った聖母マリアの歌「マニフィカト」(新約聖書:ルカによる福音書・第1章・第47~第55節)はとても美しいですね。

「神のお告げ」自体の詳しいことを説明する前に、まず、メシア(救世主)であるイエス・キリストが、後の世にお生まれになるという、旧約の時代に預言者イザヤが預言したことを説明します。旧約聖書には、次のとおり書かれています。
◯予言者イザヤの言葉
旧約聖書:イザヤ書・第7章・第14節
「それゆえ、わたしの主が御自ら
あなたたちにしるしを与えられる。
見よ、おとめが身ごもって、男の子を産み
その名をインマヌエルと呼ぶ。」
『新共同訳聖書』から

旧約聖書:イザヤ書・第9章・第5~第6節
「ひとりのみどりごがわたしたちのために生まれた。
ひとりの男の子がわたしたちに与えられた。
権威が彼の肩にある。
その名は、「おどろくべき指導者、力ある神、
永遠の父、平和の君」と唱えられる。
ダビデの王座とその王国に権威は増し
平和は絶えることがない。
王国は正義の恵みの業によって
今もそしてとこしえに、立てられ支えられる。
万軍の主の熱意がこれを成し遂げる。」
『新共同訳聖書』から

では、なぜ預言者イザヤは預言したのでしょうか。その理由とイザヤが預言したこの時代(旧約聖書の時代)の背景を簡単に説明いたします。
預言者イザヤが生きていた当時は、ユダヤ人の王国は北のイスラエル王国と南のユダ王国(王都はエルサレム)に分かれていました。このころ、強大な新アッシリア帝国(メソポタミア地方に紀元前911年から紀元前609年にかけて存在した当時世界最大の帝国)の圧力が高まる中、ユダ王国のアハズ王は新アッシリア帝国に服従していましたが、新アッシリア帝国に敵対するアラム人の国とイスラエル王国が同盟を組んだという知らせが届き、ユダ王国のアハズ王も国民も同盟軍の侵略の脅威の前に動揺していました。

旧約聖書:イザヤ書・第7章によると、この時、預言者イザヤはアハズ王のもとに赴き、事態をおそれずに神に従うこと、そうすればアラム人の国とイスラエル王国の侵略も成功しないだろうという神からの言葉をアハズ王に伝えました。アハズ王は神の言葉を受け取るのをためらいますが、これに対し預言者イザヤは「まだ信じようとしないのか」と言い、神の言葉が正しい証拠として、「インマヌエルという名の子が生まれる」という徴(しるし)をあなたたちは受け取るだろうと告げます。インマヌエルが大きくなる前にアラム人の国もイスラエル王国も滅び、諸国が荒廃する代わりにユダ王国には未曾有の繁栄が訪れると説くのでした。

そして、後の世になってイザヤの預言が実現します。神によって遣わされた大天使聖ガブリエルが、乙女マリアに受胎告知します。これは、旧約聖書の時代に約束されたイザヤの預言が成就するためだったのです。新約聖書には、次のとおり書かれています。
◯新約聖書:ルカによる福音書・第1章・第26~第38
「さて、六か月目に、み使いガブリエルが、神のもとから、ガリラヤのナザレという町の一人のおとめのもとに遣わされた。このおとめは、ダビデ家のヨセフという人のいいなずけで、名をマリアといった。み使いは、彼女のもとに来て言った。「喜びなさい、恵まれた方よ。主はあなたとともにおられます。」この言葉にマリアは胸騒ぎし、いったい、この挨拶は何のことだろうかと思った。すると、み使いは言った。「恐れることはない。マリア。あなたは神の恵みを受けている。あなたは身籠って男の子を産む。その子をイエスと名づけなさい。その子は偉大な者となり、いと高き方の子と呼ばれる。神である主は、彼にその父ダビデの王座をお与えになる。彼はヤコブの家をとこしえに治め、その治世は限りなく続く。」マリアはみ使に言った、「どうして、そのようなことがありえましょうか。わたしは男の人を知りませんのに。」み使いは答えた、「聖霊があなたに臨み、いと高き方の力があなたを覆う。それ故、生まれる子は聖なる者、神の子を呼ばれる。あなたの親戚のエリザベトも、年老いていながら男の子を身籠っている。不妊の女と言われていたのに、はや六か月になっている。神には、何一つおできにならないことはない。」マリアは答えた、「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身になりますように。」すると、み使いは彼女から離れ去った。」
『原文校訂による口語訳フランシスコ会聖書研究所訳注聖書』から
◯新約聖書:マタイによる福音書・第1章・第22~第23節
「これはすべて、主が予言者を通して告げられたことが成就するためである。「見よ、おとめが身籠って男の子を産む。その名はインマヌエルと呼ばれる。」この名は、「神は、わたしたちとともにおられる。」という意味である。
『原文校訂による口語訳フランシスコ会聖書研究所訳注聖書』から

実は、新約聖書には『福音書』は4つありますが、「インマヌエル」が記載されているのは、『マタイによる福音書』だけなのです。旧約聖書の時代の人々は、この世にメシア(救世主)である、文字どおり平和で幸せな世にしてくれる救世主を待ち望んでいたわけです。その救世主が現れると預言者イザヤは預言し、その預言がイエス・キリストがマリア(聖母マリア様)にお宿り(受胎)になって成就し、新約聖書の時代到来となったのです。『マタイによる福音書』の福音記者であるマタイは、この福音書をとおして私たちにイエス・キリストの教え(聖句=イエスの言葉)を述べ伝え、イエス・キリストは、インマヌエルという名の意味どおり、「神は、わたしたちとともにおられる。」と最後まで説いています。それが、この福音書の最後にある次の聖句です。
◯マタイによる福音書の最後の第28章
新約聖書:マタイによる福音書・第28章・第20節
「わたしは世の終わりまで、いつもあなた方とともにいる。」
『原文校訂による口語訳フランシスコ会聖書研究所訳注聖書』から

つまり、神であるイエス・キリストは、ご自分がこの世に現れたことが、すでに天の国が到来したのであって、これから来るとか、将来に来るとかではないとマタイは言っているのではないでしょうか。マタイは、イエス・キリストがいつも私たちと一緒におられることが、天の国にいるということになると説いているのですね。ですから、私たち信徒は何も恐れることはありません。イエス・キリストの教えどおり、隣人への愛、赦し、善き行い、祈りに励むこと、それが信仰の証となるのではないでしょうか。
主イエス・キリストは、いつも私たちのそばにおられます。

受胎告知の絵は、古代キリスト教の昔から多くの画家によって描かれています。受胎告知の絵には、必ずといっていいほど、聖母マリア様の象徴である「ユリの花」が描かれています。ユリの花は、聖母マリア様のアトリビュートになっていますね。次の絵は、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた『受胎告知』です。左側の大天使聖ガブリエルの左手は、茎の長いユリの花を持っています(絵をクリックすると大きく見れます)。イタリアのフィレンツェにあるルネサンス絵画で有名なウフィツィ美術館に収蔵されています。
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こちらの絵は、私の大好きなスペインの画家、エル・グレコの『受胎告知』です。エル・グレコは受胎告知を何枚も描いていますが、この絵は岡山県倉敷市にある大原美術館に所蔵されています。
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【アトリビュート】
西洋絵画、特に宗教画(キリスト教絵画)には、「アトリビュート(=持物:じぶつ)」というものがあります。これは、絵を描く時の“約束事”として、特定の人物(聖人など)に密接に結びつけられたもの、例えば花、動物、小物、道具や背景などが画かれるのです。
例えば、聖母マリア様ですと、必ず画かれているのが純潔の象徴である「百合の花」ですね。「受胎告知」の絵で、大天使ガブリエルが百合の花を持っています。そして、天の真実を意味する「青色(濃紺色)のマント」です。「祈りの聖母」と「悲しみの聖母」の絵もそうですね。他にも、「12の星の冠」や足の下に「三日月」と「蛇」が画かれています。聖母マリア様の絵を見るときはよく観察しましょうね。
他にも、聖母マリアの夫である聖ヨセフは、大工であったことから大工道具がアトリビュートになっていますし、聖アガタは、乳房を切り取られたことから、乳房がアトリビュートになっています。旧約聖書の「トビト記」に出てくるトビアスを描いた絵は、必ず魚が画かれています。(「トビト記」を読めばわかります。)マグダラのマリアの絵は、必ず香油の壺とドクロが画かれています。
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