『枕中記』のご紹介 [今日の言葉(詩・その他)]

有名人になることが幸せなのか?立身出世や人生の栄華が幸せなのか?金持ちになることが幸せなのか?いったい人の幸福はどこにあるのか?そもそも幸福とはなにか?欲に任せて生きるとどのようになるのか………今、欲に眩んだ話題の方は、大人の人間としての生き方を学ばなかったのですね。『枕中記』をよんで少しでも感じるところがあれば………『枕中記』の作者は、沈 既済(しん きせい:750年~ 800年頃)です。唐代の歴史家・小説家で、蘇州呉県の人です。歴史書『建中実録』10巻や、伝奇小説の作品があります。

◯あらすじ
中国・開元七年(719年)のこと、道士(道教を信奉して道教の教義にしたがった活動を職業とする人)の呂翁(りょおう)が、旅の途中で邯鄲(かんたん)への道中、とある宿屋に立ち寄って休憩をしていたとき、偶然通りかかった青年の盧生(ろせい)と語りあうことになります。やがて盧生は身の不遇を嘆き始めました。彼は、今の農民の暮らしではなく、官界での出世栄達を望んでいるのです。これを聞いた呂翁は、「貴方の姿を見たところ、病気などで苦しんでいる様子もなく、先程まで楽しそうに話していたではないか。何を苦しみ嘆いているのか?これをよき人生と言えないのであれば、何が人生の幸福だと言うのだろうか。」と。そして、眠気を催した盧生に、荷物袋の中から枕を取り出して渡し、盧生はそれを枕として寝ます。このとき、宿屋の主人はちょうど黍(きび)の飯を炊いていました。

夢の中で、彼は時の名族である清河の崔氏の娘を娶(めと)り、進士に挙げられ、夷狄の征伐で功績を挙げて国の高官となりますが、時の宰相に嫌われて左遷されます。しかし、三年後に呼び戻されて宰相となりますが、同僚に憎まれて謀叛を企てていると訴えられ、今度は逮捕されてしまいます。この時、盧生は自殺しようとしますが、妻に諫められて思いとどまります。一度は死罪を言い渡されたのですが、宦官(かんがん)が庇ってくれましたので、罪一等を減じられてベトナム方面への追放となります。ですが数年後、冤罪であったことがわかり、盧生は中書令として都に呼び戻され、当時第一級の人物となり、息子5人も皆な出世して孫も10人あまりもでき、80余の長寿を以て死にました。

死んだと思ったら、盧生は「なんと夢だったのか!」と眠りから覚めますが、寝る前に宿屋の主人の炊いていた黍の飯は、まだ煮えていませんでした。夢は一瞬だったのです。すると呂翁は笑いながら「人生の楽しみとは、まぁこんなものだろう」と言いました。盧生はしばらくぼんやりしていましたが、やがて呂翁に礼を述べ、「名誉と恥辱の道程、困窮と栄達の運命、成功と失敗の道理、死と生の実情、これらのすべてがわかりました。これは、先生が私の貪欲を抑えるために、この枕で夢を見させたのですね。ご訓戒、深く心にしみました。謹んで先生のお教えに従います。」そして、頭を下げて二度礼拝してから宿屋を出て行きました。盧生は、出世栄達の儚さ(はかなさ)を悟ったのでした。

◯私は『唐宋伝奇集(上)』岩波文庫版で読みました。ブックオフで500円でした。
訳者:今村与志雄
発刊:1988年7月18日
定価:中古で500円くらいです。
※現在は「品切れ」となっております。
Webサイト「日本の古本屋」で検索してください。https://www.kosho.or.jp/
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<収録作品>
・白い猿の妖怪――補江総白猿伝(無名氏)
・倩娘の魂――離魂記(陳玄祐)
・邯鄲夢の枕――枕中記(沈既済)
・妖女任氏の物語――任氏伝(沈既済)
・竜王の娘――柳毅(李朝威)
・紫玉の釵――霍小玉伝(蒋防)
・南柯の一夢――南柯太守伝(李公佐)
・敵討ち――謝小娥伝(李公佐)
・鳴珂曲の美女――李娃伝(白行簡)
・夢三題――三夢記(白行簡)
・長恨歌物語――長恨歌伝(陳鴻)
・鶯鶯との夜――鶯鶯伝(元稹)
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